2010年10月18日
47秒6の魔術【blandford】
菊花賞アーカイブ、その4です。
これはこれまでの3本と同様、2003年ザッツザプレンティが勝った菊花賞の記事ですが、おそらく、僕が書いたレース回顧の中ではこれがベストです。自分でも特に気に入っているので、また改めてみなさんに読んでいただければ、と思っての再録です。
当時、一部で絶賛していただきました。
今年は菊花賞、どんなドラマが繰り広げられますでしょうか(^^)
(以下、再録)
タイトル/47秒6の魔術
ネオユニヴァースの三冠なるか、それとも藤沢厩舎がゼンノロブロイでとうとうクラシックレースを勝つのか、あるいは今年もまたひっそりと「ヒシミラクル」がどこかに隠れて、爪を研いでいるのか・・・。
2003年の菊花賞、レース前の話題はおおむねそんなところだったが、しかし競馬史の中では、「なにしろアンカツが凄かったレース」として語り継がれていくのではないだろうか。
アンカツの何が凄かったのか。それは、この4つの数字に、余すところなく表現されている。
これは、菊花賞の舞台となった淀の3000m、ラスト4ハロンのラップだ。
この魔法のラップで、3歳になってからまだ未勝利だったザッツザプレンティを、アンカツはまんまと菊花賞馬にしてしまったのだ。
このラップ、レースの流れの中で、詳しく見ていこう。
まず最初の<11秒8>。
これは3コーナー・坂の頂上近辺からのラップになる。
この少し前、向正面では、三冠を狙うネオユニヴァースがやや後方から、そして逆転の一番手と見られていたゼンノロブロイが、先行集団のすぐあと。広い京都競馬場をほぼ一周してきて、まだまだレースは「にらみ合い」の様相。このままおそらく<全馬淡々と3角の坂をクリアして、4角手前から一斉に追い比べ>・・・という、例年通りの展開になりそうなムードだ。
しかし、レースはここで、思いがけず一気にクライマックスへとなだれ込んでいくことになった。「ゆっくり下らないとならない」と言われている京都の坂、その頂上からアンカツがバッと仕掛けて、馬群の外を一気に先頭へと踊り出たのだ。ここが<11秒8>。その直前が<12秒9>だから、あまりに突然のペースアップだった。
突如として均衡が破れて、どのジョッキーも完全に虚を突かれている。この時点で、レースは一瞬にしてアンカツの支配のもとで動くことになった。
次のラップ、<11秒5>。
ここまですでに、レースは2400mを終えている。その、2400の通過タイムが2分29秒0だから、3000mのレースとしては、決して楽な流れではない。にもかかわらず、その直後に<11秒5>。
おそらくこれが、ザッツザプレンティを菊花賞馬にした一番のポイントだろう。
この地点でこんな急激にスピードアップをされたら、ほかの馬は、たまったものではないのだ。もちろん、ザッツにしても下手をするとゴール前で脚が上がってしまう危険をはらんではいたんだが、アンカツは果敢に、勝つための賭けに出た。
この「11秒5」は、コースで言うと、ちょうど3コーナーから4コーナーの大きなカーブの部分にあたる。ここで、楽をせずグッと力強く加速して行ったザッツの脚に、他馬は大慌てとなった。こうなると、自分のフットワークやリズムを崩されながらも、ザッツのタイミングで動いていくしか手がない。そうしないと、もう完全に、レースの流れに乗り遅れてしまうのは明らかだった。この時点で、他馬は完全にアンカツマジックの術中に落ちてしまっている。
そしてその次、<12秒0>。
これは、直線に向いて最初の1ハロンのラップだ。
ここで先頭を行くザッツが「12秒0」ということは、後ろからこれを差すためには、この地点でさらに11秒台半ばの脚を要求される、ということを意味していた。
しかしそんな離れ業はもう、無理なのだ。
後ろから来る馬に、ここで「11秒台の脚」を使わせないために、アンカツは3角から4角にかけて一気にピッチを上げたのだから。あの急なチェンジオブペースをとっさに追いかけて行って、さらに直線に入って最初の1ハロンでそんな鬼脚を繰り出せるような化け物は、さすがにいない。
3角でアンカツがバッと抜けていったときに、ただ独り血相を変えて追いかけていったデムーロはさすがに判断抜群だったが、しかしデムーロの身体の下で、春の王者ネオユニヴァースも、もうかなり苦しくなってきていた。
そしてゴール前の1ハロンが、ダメ押しの<12秒3>。
三冠を目指すネオユニヴァースの脚いろが、絶望的に、前を行くザッツと同じになってしまっている。追いかけても追いかけても、差は一向に詰まらない。追いかけるネオのほうが、最後は完全に根負けした形となった。
これが、「切れ味のなさ」という泣き所を抱えたザッツザプレンティのジリ脚を、見事に一発で「勝つための長所」に変えてしまったアンカツマジックのすべてだ。「こう乗って負けるなら、それはもう仕方のないこと」と腹をくくった乗り方で、馬の個性とレースの流れを読みきった、完璧な騎乗ぶりだった。
この間、時間にすると47秒6。1ハロンの平均が11秒9となる。「切れ味では劣るけれども、平均的に速い脚を4ハロン持続できる」というザッツの個性が、アンカツに導かれて見事に大輪をつかんだのだった。
直線向くまでまったく死んだ振りをしていたリンカーンが、漁夫の利的にネオユニヴァースを交わして猛追したが、しかしザッツはもうゴール板を通り過ぎていた。そして、4角で「もうワンテンポだけ仕掛けを遅らせたい」と目論んだゼンノロブロイは、いっせいに動き出した他馬に閉じ込められ、インで行き場を失ってしまって、直線入口ですでに圏外に去った。
しかし凄いことを考える騎手がいるものだ。アンカツの演出したラスト4ハロン、11.8-11.5-12.0-12.3は、菊花賞史上に残る芸術的なラップだったと言っていい。
【記録】
1着 ザッツザプレンティ 2着 リンカーン 3着 ネオユニヴァース
<ラップ>
13.0-11.1-11.7-12.7-12.1-
12.2-13.0-13.0-12.7-12.8-
12.9-11.8-11.5-12.0-12.3
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これはこれまでの3本と同様、2003年ザッツザプレンティが勝った菊花賞の記事ですが、おそらく、僕が書いたレース回顧の中ではこれがベストです。自分でも特に気に入っているので、また改めてみなさんに読んでいただければ、と思っての再録です。
当時、一部で絶賛していただきました。
今年は菊花賞、どんなドラマが繰り広げられますでしょうか(^^)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(以下、再録)
タイトル/47秒6の魔術
ネオユニヴァースの三冠なるか、それとも藤沢厩舎がゼンノロブロイでとうとうクラシックレースを勝つのか、あるいは今年もまたひっそりと「ヒシミラクル」がどこかに隠れて、爪を研いでいるのか・・・。
2003年の菊花賞、レース前の話題はおおむねそんなところだったが、しかし競馬史の中では、「なにしろアンカツが凄かったレース」として語り継がれていくのではないだろうか。
アンカツの何が凄かったのか。それは、この4つの数字に、余すところなく表現されている。
◇----------------------◇
11.8-11.5-12.0-12.3
◇----------------------◇
11.8-11.5-12.0-12.3
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これは、菊花賞の舞台となった淀の3000m、ラスト4ハロンのラップだ。
この魔法のラップで、3歳になってからまだ未勝利だったザッツザプレンティを、アンカツはまんまと菊花賞馬にしてしまったのだ。
このラップ、レースの流れの中で、詳しく見ていこう。
まず最初の<11秒8>。
これは3コーナー・坂の頂上近辺からのラップになる。
この少し前、向正面では、三冠を狙うネオユニヴァースがやや後方から、そして逆転の一番手と見られていたゼンノロブロイが、先行集団のすぐあと。広い京都競馬場をほぼ一周してきて、まだまだレースは「にらみ合い」の様相。このままおそらく<全馬淡々と3角の坂をクリアして、4角手前から一斉に追い比べ>・・・という、例年通りの展開になりそうなムードだ。
しかし、レースはここで、思いがけず一気にクライマックスへとなだれ込んでいくことになった。「ゆっくり下らないとならない」と言われている京都の坂、その頂上からアンカツがバッと仕掛けて、馬群の外を一気に先頭へと踊り出たのだ。ここが<11秒8>。その直前が<12秒9>だから、あまりに突然のペースアップだった。
突如として均衡が破れて、どのジョッキーも完全に虚を突かれている。この時点で、レースは一瞬にしてアンカツの支配のもとで動くことになった。
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次のラップ、<11秒5>。
ここまですでに、レースは2400mを終えている。その、2400の通過タイムが2分29秒0だから、3000mのレースとしては、決して楽な流れではない。にもかかわらず、その直後に<11秒5>。
おそらくこれが、ザッツザプレンティを菊花賞馬にした一番のポイントだろう。
この地点でこんな急激にスピードアップをされたら、ほかの馬は、たまったものではないのだ。もちろん、ザッツにしても下手をするとゴール前で脚が上がってしまう危険をはらんではいたんだが、アンカツは果敢に、勝つための賭けに出た。
この「11秒5」は、コースで言うと、ちょうど3コーナーから4コーナーの大きなカーブの部分にあたる。ここで、楽をせずグッと力強く加速して行ったザッツの脚に、他馬は大慌てとなった。こうなると、自分のフットワークやリズムを崩されながらも、ザッツのタイミングで動いていくしか手がない。そうしないと、もう完全に、レースの流れに乗り遅れてしまうのは明らかだった。この時点で、他馬は完全にアンカツマジックの術中に落ちてしまっている。
◇
そしてその次、<12秒0>。
これは、直線に向いて最初の1ハロンのラップだ。
ここで先頭を行くザッツが「12秒0」ということは、後ろからこれを差すためには、この地点でさらに11秒台半ばの脚を要求される、ということを意味していた。
しかしそんな離れ業はもう、無理なのだ。
後ろから来る馬に、ここで「11秒台の脚」を使わせないために、アンカツは3角から4角にかけて一気にピッチを上げたのだから。あの急なチェンジオブペースをとっさに追いかけて行って、さらに直線に入って最初の1ハロンでそんな鬼脚を繰り出せるような化け物は、さすがにいない。
3角でアンカツがバッと抜けていったときに、ただ独り血相を変えて追いかけていったデムーロはさすがに判断抜群だったが、しかしデムーロの身体の下で、春の王者ネオユニヴァースも、もうかなり苦しくなってきていた。
◇
そしてゴール前の1ハロンが、ダメ押しの<12秒3>。
三冠を目指すネオユニヴァースの脚いろが、絶望的に、前を行くザッツと同じになってしまっている。追いかけても追いかけても、差は一向に詰まらない。追いかけるネオのほうが、最後は完全に根負けした形となった。
これが、「切れ味のなさ」という泣き所を抱えたザッツザプレンティのジリ脚を、見事に一発で「勝つための長所」に変えてしまったアンカツマジックのすべてだ。「こう乗って負けるなら、それはもう仕方のないこと」と腹をくくった乗り方で、馬の個性とレースの流れを読みきった、完璧な騎乗ぶりだった。
この間、時間にすると47秒6。1ハロンの平均が11秒9となる。「切れ味では劣るけれども、平均的に速い脚を4ハロン持続できる」というザッツの個性が、アンカツに導かれて見事に大輪をつかんだのだった。
◇
直線向くまでまったく死んだ振りをしていたリンカーンが、漁夫の利的にネオユニヴァースを交わして猛追したが、しかしザッツはもうゴール板を通り過ぎていた。そして、4角で「もうワンテンポだけ仕掛けを遅らせたい」と目論んだゼンノロブロイは、いっせいに動き出した他馬に閉じ込められ、インで行き場を失ってしまって、直線入口ですでに圏外に去った。
しかし凄いことを考える騎手がいるものだ。アンカツの演出したラスト4ハロン、11.8-11.5-12.0-12.3は、菊花賞史上に残る芸術的なラップだったと言っていい。
【記録】
1着 ザッツザプレンティ 2着 リンカーン 3着 ネオユニヴァース
<ラップ>
13.0-11.1-11.7-12.7-12.1-
12.2-13.0-13.0-12.7-12.8-
12.9-11.8-11.5-12.0-12.3
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日時: 2010年10月18日 02:46
カテゴリー: 菊花賞

